2025年始|井上尚弥のリアルな世界評価【海外の反応】

日本の世界評価

日本人アスリートが海外で注目され、その活躍を日本のメディアが大々的に取り上げるケースは珍しくない。しかし、海外の声として伝えられる賛辞が、現地の実際の評価と乖離していることがある。慣れた読者は「本当にそんなことを言われているのか?」と疑問を抱くだろう。実際に確かめると評価が真反対ということもしばしばある。

とはいえ、井上尚弥の場合、その名声は世界中で揺るぎない。
昨年9月、テレンス・ドヘニーに7回KOで勝利し、年明け1月にサムグッドマンとの防衛戦を控えた2025年初時点での評価となるが、その試合内容と実績において現地メディアや専門家の間でも「非の打ち所がない」という意見が支配的だ。対戦相手やその陣営がトラッシュトークを仕掛けることはあっても、メディアの報道においては批判の声を探す方が難しい。

本稿では、日本ボクシング史上最高傑作と称される”モンスター”井上尚弥に対する、海外からのリアルな評価を詳しく紹介する。

井上尚弥の歴史的評価を語り始めたボクシング関係者たち

24年7月にルイス・ネリを逆転KOで下した直後、プロモーターのボブ・アラム氏は「この少年は今まで見た中で最高のファイターだ」「こんなことは見たことがない。信じられない」と興奮気味に語った。
ボクシングを40年取材するアメリカのケビン・アイオレ記者は、「井上のライバルはパウンド・フォーパウンド上位の選手ではなく」、ボクシング界のレジェンドたちだと言及。その上で、「タイソンのパワー、メイウェザーのスピード、レナードの正確さ、チャベスのボディパンチ、ハグラーの強靭さ、そしてアリの欲望を併せ持つ」と井上を絶賛し(参考)、井上尚弥の存在が歴史的意義を持つことを強調している。

イギリスの「ガーディアン」紙も、井上を「タイソンより優れている」と評価。特に13人の世界チャンピオンとの戦いすべてに勝利し、その実績の中で常に破壊的なパフォーマンスを見せてきた点に注目している(参考)。

長年HBOのボクシング番組を監修したプロモーターのルー・ディベラ氏はESPNの取材に対し、「この子を愛さないなら、ボクシングについて何も知らない」と語り、マイク・タイソンもこれに同意している。

ネット掲示板で発見された、井上尚弥の信じられないデータ

アメリカの人気掲示板Redditで、「井上尚弥は10-8ラウンド(42)の方が9-10ラウンド(40)より多い」というスレッドが立ち話題となっている。
10-8は、圧倒的に優勢だったラウンドに付けられる採点で、主にダウンシーンに対して与えられる。一方の9-10は相手が優勢だったラウンドを示す。つまり、井上はキャリアの中で、失ったラウンドよりもダウンを奪ったラウンドのほうが多いことを意味している。

この信じられないデータに対して、ネット民からは次のよう驚きの声が上がっている(参考)。

「それは本当にクレイジーな統計だ」
「井上は今日引退しても、第一投票で殿堂入りしATG(史上最高)ファイターになることができる」
「尚弥はこれまでに468ラウンドを戦ってた。つまり、1試合あたり平均2ラウンド以下しか負けていない」
「このような支配的な戦績を見たことがない」
「他に誰がその統計を持っているか? ロイ(ジョーンズJr)かもしれない」

※動画はルイス・ネリ戦のハイライト

井上尚弥の課題は”物語性”の欠如?

井上尚弥の課題について、「Bull & Bear」誌のコラムは興味深い指摘をしている。
記事ではまず、「ボクシングというスポーツは、そのライバル関係によって大きく定義づけられる」と指摘。モハメド・アリ対ジョー・フレージャーからカネロ・アルバレス対ゴロフキンに至るまで「リングに上がった最高のファイターたちは伝説のファイトに参加した」とした上で、井上の試合がはあまりにも一方的であるため、一部のファンを遠ざけている現状に触れている。軽量級に詳しくない人々は井上の優勢は弱い選手と戦っているためだと考え、井上という偉大な選手を「平凡に見せている」という(参考)。

カナダのマギル大学が発行するこの学生新聞の忖度ない指摘もまた、井上尚弥に対する北米のリアルな評価(あるいは感情)といえるだろう。
一方で、決してボクシングが盛んとは言えないカナダという地の一般学生にまで井上の名が広まったことを思うと、筆者のような長年の日本ボクシングファンとしては感慨深いものがある。

ボブ・アラム氏が示唆したように、2025年には中谷潤人とのビッグマッチが期待されており、すでにESPNをはじめ世界中のスポーツメディアが大きく注目している。伝説的なライバル関係の誕生が、今年32歳となる井上の価値をさらに押し上げるかもしれない。