音楽流行|2024インドの最新ヒットチャートは洗練されていた

文化・芸能

世界の最新音楽を特集するシリーズ「音楽流行」。第2回の今回はインドの音楽カルチャーを紹介する。

まず本題に入る前に、インド音楽市場の特異性について触れておきたい。
国際レコード産業連盟の調査(Music Listening2023)によると、インド人に最も好まれている音楽ジャンルは「ボリウッド(Bollywood)」。ボリウッドとは、ムンバイの旧称「ボンベイ」の頭文字「ボ」と、アメリカの「ハリウット」を合わせてつけられた造語で、つまりインド映画だ。インドでは映画音楽が日常的に親しまれている。

インド最大の音楽ストリーミングサービス「Gaana」のランキングにもボリウッド作品がずらりと並ぶ(https://gaana.com/charts)。ヒットソングの多くは映画のサントラアルバムからのシングルカットで、時には歌手や作曲家よりも、俳優や振付師の名前が曲の話題になる。インド音楽市場のユニークさはこの辺りにある。
ヒットした映画の挿入歌は凄まじい人気で、youtubeに公式アップロードされているMVの再生数は億超えを連発する。

以下、前述Gaanaのランキングを元に最新ヒットソングを紹介する。
筆者はこれについて、かつて一世を風靡した「ムトゥ踊るマハラジャ」(1995)から情報が更新されていない中高年リスナーに特にお勧めしたい。伝統と革新が融合したインド音楽の洗練されたサウンドと演出は、日本の読者に新たな音楽体験をもたらすだろう。

※注釈:順位の横は曲名、()カッコは元となる映画のタイトルを表記した。

第10位 ランジャン(Do Patti)

映画『Do Patti』(2024)からのシングルカット。「Raanjhan」は本質的な愛を歌ったラブソングで、愛することの美しさ、心の痛み、切望が表現されている。主演はクリティ・サノンとシャヒール・シェイク。ふたりの演技にサシェ=パラームパーラーの優しい歌声がリンクし、リリース直後から人気を集めた。

映画はヒンディー語で制作されたミステリー・スリラーで2024年10月25日にNetflixで配信された。

第9位 クーブスラット(Stree 2)

2024年にインド国内で大ヒットした映画「Stree 2」からのシングルカット。クーブスラットは日本語で「美しい」を意味し、美しく優しい旋律は大切な人と一緒に過ごしながら聴きたい一曲である。
ボーカルはヴィシャル・ミシュラ、作曲はインドで今注目を集めているデュオのサチン&ジガーが手掛けた。

第8位 サジニ(花嫁はどこへ?)

映画「Laapataa Ladies」の挿入曲「Sajni」は、ノスタルジーを感じさせるロマンスと優しさを捉えた美しいラブソングである。歌手はアリジット・シン、作曲はラム・サンプスが担当。

この映画は、世界では「Lost Ladies」としてトロント国際映画祭で公開されたのを皮切りに、メルボルン・インド映画祭で最優秀作品賞(批評家賞)を受賞するなど、国際的に高い評価を得た。第97回アカデミー賞の国際長編映画賞のインド代表作品。
映画のストーリーは、夫の家に向かう電車の途中で入れ替わった2人の若い新婚花嫁の物語で、日本では「花嫁はどこへ?」の邦題で知られる。

第7位 カストゥリ(Amar Prem Ki Prem Kahani)

インドの人気シンガーであり俳優のアリジット・シンによる最新曲。曲名の「Kasturi」は「香り」を意味する。抑えきれない秘めた愛を魅惑的なメロディーで表現し、リスナーを魅了する。

アリジットの声は心の感情をうまく表現することで知られ、現地の報道でも、この映画についての批評にはアリジットへの賛辞で溢れている。「Amar Prem Ki Prem Kahani」は、2024年に公開されたインドのヒンディー語によるドラマ映画。

第6位 トウバ・トウバ(Bad Newz)

映画「Bad Newz」の挿入曲。グルーヴィーでエネルギッシュな「Tauba Tauba」は、SNSやインターネットで大きな話題となり、インドの若者の間で絶大な人気を得ている。この曲は癖になり、一度聞くと耳から離れない「感染力」のある曲だ。
2024年7月にリリースされ、Billboard IndiaUK Asianチャートで1位を獲得
映画は2024年制作、アナンド・ティワリ監督によるヒンディー語コメディ作品。違う父親を持つ二人の子が同じ母体に宿ってしまったことを中心に展開する物語だ。

第5位 ミリオネア

トップ10で唯一、ボリウッド(映画)ジャンルではないオリジナル楽曲からのランクイン。
ヨーヨー・ハニーシンの最新アルバム「Millionaire」からのタイトルトラックで、生きざまと、彼を象徴するラグジュアリーなライフスタイルをキャッチーなビートに乗せて表現している。

本作品は2006年に ハニーシンが「Glassi」でETC賞の最優秀サウンド賞を受賞して以来の大ヒットとなり、youtubeの再生回数が2億回を超えるなど再び彼の実力を証明した1曲となった。

第4位 ブールブレヤ(Bhool Bhulaiyaa3)

映画「Bhool Bhulaiyaa 3」からのタイトルトラック。ボリウッドでありながらインターナショナルな雰囲気を持ち、インドミュージックの今と昔が融合したような1曲。基本はヒンディー語の曲で、ダイナミックな歌声とキャッチ―なビートに、さらにラップが加わることでインドミュージックに新しい音楽の形を示した。

日本では「ラビリンス3」の邦題で知られるこの映画は2024年公開のヒンディー語コメディ・ホラーで、西ベンガル州コルカタが舞台となっている。全世界で42億1千万ルピー(75億円)以上の興行収入を上げ、2024年のインド映画で第4位という成績を収めた。

第3位 アイーナイ(Stree 2)


大ヒット映画「Stree 2」の挿入歌で、第9位のクーブスラットに次いで2曲目のランクイン。明るい曲調が特徴的で、まさに日本の往年のリスナーがイメージするインド音楽ではないだろうか。エネルギッシュでアップテンポな「Aayi Nai」は気分を上げたいときやダンスにピッタリ。
作曲は今注目のデュオ、サチン&ジガー(Sachin-Jigar)が手掛けた。
※サチン&ジガーはこの曲と合わせて3曲がトップ10にランクイン

第2位 ミレメボー(Vicky Vidya Ka Woh Wala Video)

映画『Vicky Vidya Ka Woh Wala Video』の挿入曲「ミレメボー」(私の愛する人)は、独特のメロディーラインとキャッチーなビートで多くの人々の心を捉えた。2024年9月リリース。素直で純粋な愛をインドらしいメロディーに乗せ、セクシーかつ爽やかに表現されている。

映画はヒンディー語によるコメディ映画で、ラージクマール・ラーオとトリプティー・ディムリが主演。新婚カップルの夜の営みを撮影したビデオテープが紛失したことから、必死に探すカップルを主軸に物語が展開する。

第1位 アージキラート (Stree 2)

2024年今冬のインド音楽チャート、栄えある1位は大ヒット映画「Stree 2」から3曲目のランクイン。「Aaj Ki Raat」(直訳すると”今夜”という意味)は、インドの伝統的な旋律が妖艶でエネルギッシュな雰囲気を醸し、今年最も人気のある曲の1つとなった。作曲したのは、インド音楽業界をリードするプロデューサーのサチン&ジガー(本稿3度目の登場!)。ビルボード・インディアで1位、同グローバル200部門で65位を獲得した。
余談だがこのMVはタマンナー・バティア(女優)の誕生日に気温5度の中撮影されたそう。寒さを感じさせない踊りと音楽に脱帽だ。

映画は、インドの独立記念日である8月15日に公開されたホラーコメディ。全世界で87億4,580万ルピー(150億円)以上の収益を上げた。これは2024年のインド映画で2番目に高い興行収入であり、歴代のインド映画史上でも9位という好成績である。