急拡大する中国発ショートドラマとは?市場と展望

世界経済・マネー・社会課題

TikTokやインスタグラムのリール広告で、中国ドラマの縦型ムービーが流れるのを見たことがあるだろうか。
これらはショートドラマ(英語圏ではマイクロドラマともいう)と呼ばれるもので、スマートフォンアプリで配信され、今世界で急速に市場を拡大している。
韓国ウェブトゥーン(縦スクロール型のスマホ漫画アプリ)に次いで注目が集まる、アジア発のこの全く新しいビジネスモデルについて今回は解いてみよう。

ショートドラマの仕組みと市場規模

ショートドラマは、100分程度のストーリーを1話1~2分程度に分解し、話ごとにCMを挟むことで収入を得ている。課金をすればまとめて見ることも可能だ。全話視聴しても、ひとつの作品の長さは映画1本より短い。
スマートフォンの画面に最適化された縦型フォーマットで制作されているため、スマホユーザーにとって隙間時間に利用しやすく、世界中のZ世代を中心にファンを獲得している。

内容は、恋愛、裏切り、復讐劇を軸としながら、数話ごとにどんでん返しを織り交ぜることでインパクトと中毒性を持たせており、気が短い視聴者を飽きさせない工夫が散りばめられている。低予算で、俳優の演技よりもドラマの展開を重視した作りになっていることも特徴的だ。

ショートドラマの市場価値は2024年に52.6億ドル(約7,700億円)の規模に達しているという。国別の売上高を開示されていないが、アイルランドのエイミー・ギルモア記者は「インバウンド購入収益は1億7,000万米ドル(255憶円)」と分析している(ADJUST)。中国メディア・チャイナデイリーによると、日本では既に「Netflixを上回る成績を収めている」という。

またチャイナデイリーは中国国外での活動について「(中国)国内シリーズから選ばれた翻訳ドラマ」「海外オリジナル作品」の2軸で展開しているとし、現地チームや外国の映画スタッフと協力することで、事業範囲を大幅に拡大している様子を伝えている。2025年は全世界で市場規模が250%に膨らむとの予測だ。

ショートドラマを体験してみた(記者の目)

素性や経歴を隠した社長(または令嬢、または女帝)が庶民に紛れて生活し、そこで虐めに合い、いざという場面で身分を明かして復讐するー。

いくつかの作品を視聴してみると、ストーリーはだいたい似た内容で、ひと言でいうと水戸黄門だ。
ややチープなプロットに見えるのは、原作の多くが中国のネット小説を元にしているからか。収益を生んだストーリーは焼き増しされ、また似たような作品が公開される。

DoramaBoxというアプリの作品検索画面には、サムネイルに「溺愛」「復讐」「分からせ」「実力隠し」などのドラマジャンルを示すキャプションが被せられていて、見る前からどんな作品なのか結末が見えてしまう。
しかしながら、そこは水戸黄門だからこその安心感と面白さ。ネタバレを厭わず”タイパ重視”な一定のニーズに適合していると考えられ、次々と別の作品に手を伸ばす視聴者の行動にも頷ける。

中国ショートドラマ

DoramaBoxの作品選択画面

今秋は日本の俳優が起用されている作品を度々目にするようになり、ローカライズが本格化していることを示唆している。日本のテレビ俳優がNetflixやAmazonプライムビデオといったグローバルな動画配信プラットフォームで活躍する機会が飛躍的に増えているように(10年前に想像できなかった)、やがてショートドラマで同じ現象が起こらないとも限らない。

ショートドラマの強みは何より視聴の手軽さ。世界中の脚本家たちの参画により表現の幅が広がり、新たな可能性が生まれている。日本のクリエイターたちの活躍もこの変化を加速させるだろう。

最後に。
翻訳ショートドラマについて私の個人的な楽しみ方をひとつお伝えするならば、機械翻訳のような片言の日本語字幕がコミカルでとても好ましく、粗削りな中国ベンチャー企業の創意工夫が感じられて面白い。出来れば洗練されて欲しくない。